旧加賀国・現在の石川県の伝統料理である「加賀料理」は、加賀百万石の城下町文化と日本海・白山などの自然の恵みがもたらす豊富な食材、さらに京都と江戸の食文化が融合して生まれ、その後今に至るまで地元の家庭料理として長く根付いています。
今回、北陸の有名温泉地の一つである「加賀・山代温泉」の老舗温泉旅館で加賀料理を日々調理している、キャリア50年以上のベテラン総調理長をはじめ、3名の若手料理人の方にインタビュー。
改めて「加賀料理ならではの特徴や魅力」について伺ってみました。
【お話を伺ったのは・・・】
ゆのくに天祥(株式会社ホテルゆのくに)
開湯1300年の歴史と伝統を誇る温泉地加賀温泉郷・山代温泉にて、60年以上に渡って旅館を運営。
「笑顔と肩の凝らない親切なおもてなし」をモットーに、一人ひとりのお客様に対するおもてなしに力を入れています。
その結果、2026年第51回「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」(総合4位)や2025年度「人気温泉旅館ホテル250選」に毎年連続入賞するなど、多くのお客様から高い評価を得ている老舗人気旅館です。
【インタビューにご協力いただいた方】※画面右より
煮物担当 土方さん(新卒入社7年目)
総調理長 安部さん
総調理長 安部さん
刺身担当 重原さん(中途入社2年目)
刺身担当 梅田さん(新卒入社3年目)
キャリア50年以上の総調理長が語る、加賀料理の特徴とは?
「加賀料理は地元においては『家庭料理』『庶民の行事料理』がルーツです。」と語るのは、山代温泉の老舗旅館『ゆのくに天祥』で50年以上加賀料理の調理と向き合い続けている、総調理長の安部さん。
一般的な加賀料理の定義として、旧加賀国で作られる
◎加賀野菜⇒源助大根(げんすけだいこん)、加賀太きゅうり、金時草(きんじそう)、五郎島金時(さつまいも)など
◎日本海でとれる魚介類⇒ズワイガニ(地物は「加能ガニ」、メスは「香箱ガニ」と呼ばれる)、寒ブリ、甘エビ、のどぐろなど
といった地元の新鮮な素材や米、お肉、調味料などを使って調理されたものが加賀料理になります。
また代表的な加賀料理の一例としては
■治部煮(じぶに): 鴨肉(または鶏肉)に小麦粉をまぶし、だし汁で加賀野菜や「すだれ麩」と一緒に煮たもの。とろみのある汁とワサビのアクセントが特徴
■かぶら寿し: 冬の伝統的な発酵食品で、塩漬けしたかぶらにブリの切り身を挟み、米麹で漬け込んだ漬物
■鯛の唐蒸し(たいのからむし): お祝いの席(特に婚礼)に欠かせない大皿料理で、背開きにした鯛に、おからの炒り煮を詰めて蒸し上げたものなどが挙げられます。
安部さん
「さらに器には『九谷焼』『山中漆器』『輪島漆』などを使って、季節感を大切にした盛り付けを行うのも加賀料理の特徴の一つです」
ゆのくに天祥が生み出す加賀料理のこだわりとは?
ゆのくに天祥では加賀料理に対して、どのようなこだわりを持って取り組んでいるのでしょうか?
安部さん
「長年おつきあいしている、地元の農家の皆さんや市場の卸業者、また精肉店・鮮魚店の店主から、新鮮な食材に関する情報をいただき、その食材を優先して調理します。
特にゆのくに天祥の場合、他の旅館やホテルと比べても地元で獲れる食材を積極的にとりいれており、全体の約半分は地元の食材。
また「治部煮」「かぶら寿し」など定番の加賀料理はもちろん、お客様のニーズが高い「のどぐろ」をメインとした懐石料理や、「やたがらすうどん(竹炭を練りこんだうどん)」などの創作料理も広く提供しています」
このように「じのもん(地元産の食材)」をできる限り率先して使いつつ、素材の良さを最大限生かせる様々な調理法・料理に昇華することによって、加賀料理の持つ独自の魅力を毎日、多くの宿泊客に提供しているそうです。
3名の若手料理人が語る、加賀料理の魅力や難しさ、そしてやりがいとは?
ゆのくに天祥で日々、加賀料理を調理している若手3名の社員の皆さんそれぞれに対して加賀料理の魅力や難しさ、そして調理を通じて得られるやりがいについて聞いてみました。
◎土方さん「だしの取り方で味を均一にする難しさと、創意工夫するやりがい」
地元出身で、子どものころから料理作りが好きだったことから高校卒業後、地元で有名な旅館だった「ゆのくに天祥」に就職しました。
入社7年目の今は煮方を担当しており、出汁に使うかつおやこんぶなどの仕入れや仕込みなどを行っています。
地元でありながら「治部煮」をはじめ、私も知らない加賀料理が多くあったことが驚きでした。
また出汁づくりにおいて「味を一定に保つ」ことがとても難しく、先輩からは火入れ等のアドバイスをもらったり、また仕入先でお世話になっている方からも日々、様々な知識を得ることで試行錯誤しながら今も取り組んでいます。
私の作った出汁をベースに、様々な加賀料理を提供して後日、お客様からのアンケートで「出汁が美味しい」というコメントをいただけることが、私にとって大きなやりがい。
今後も理想である、親方が作る出汁を私も出せるように努力したいです。
◎梅田さん「加賀料理に魚のイメージがなかった。マグロのさばきが難しい」
同じ石川県内でも能登出身でしたが、高校の時に調理科に進んでその後、本格的に料理の世界にチャレンジしようと決意しました。
「ゆのくに天祥」は客として利用したことがあり、とても良い環境で成長できると思って入社。
今は板場でお魚をさばいてお造りを担当しています。
正直、加賀料理に対する知識はあまりなかったのですが、いざ自分が様々な魚をさばくことになると「加賀料理って魚を使う料理もたくさんあるんだな」と驚きました。
私が今苦労しているのが「マグロ」。
部位によってさばき方が違うので、本当に難しいですね。
でも最初の頃より早く、そしてきれいにさばけるようになってきた実感があるので、それが今のモチベーションにもつながっています。
◎重原さん「季節の魚を仕入れてさばく。クジラを調理したことも」
前職は居酒屋で調理をしていましたが、もっと本格的に調理技術を磨きたいと考えて「ゆのくに天祥」に転職しました。
梅田さんと同じく、今は様々な魚をさばいていますが改めて思ったのは、加賀料理は本当に様々な種類の魚を使うこと。
マグロやのどぐろ、寒ブリや甘エビ、カニといった加賀料理を代表する魚をはじめ、中には「くじら」が入荷したこともありました。
季節によって新鮮な魚を仕入れるのですが、その時には市場の方から様々な情報をもらったり、新たな知識を得ることが面白いです。
また梅田さんと同じく、特にマグロをきれいにさばくことが苦手なので、まずは苦手を克服できるように技術を磨きたいと思っています。
3名の若手の方たちはそれぞれ、加賀料理の魅力や調理する難しさを日々感じながら、よりきれいに、よりおいしい料理作りにチャレンジしています。
総調理長の安部さんからは「今後は若手料理人の育成はもちろん、新メニュー考案などこれまで私が一手に担ってきたことも積極的に若手に任せていきたい。そして加賀料理の魅力を今後も末永く多くのお客様に知ってもらいたい」と語っています。
これまで加賀料理を知らなかった方はぜひこの機会に一度、加賀料理を堪能してその奥深い世界を体験してください。
