板前修行といえば、「技は見て盗め」「下積み10年」といった厳しい世界を想像するかもしれません。しかし、創業130余年の歴史を持つ「築地寿司清」は、その伝統を大切にしながらも、育て方を進化させてきました。なぜ、伝統ある寿司店が「教える仕組み」をこれほどまでに磨き上げているのか。そこには、職人の未来を想う熱い理由がありました。
【株式会社寿司清】
明治22年(1889年)、日本橋魚河岸で産声を上げた「築地寿司清」。以来130年以上にわたり、江戸前寿司の伝統を守り続けて きました。大切にしているのは、単に美味しい寿司を提供することだけではなく、カウンター越しにお客様一人ひとりと向き合 い、旬の素材と最高の技術、そして細やかな気遣いで、お客様に喜んでもらうこと。そのためにも、人を育てることをとても大事 にしている会社です。
今回お話を伺ったのは…、
左から、
2024年4月入社/平手海吏(ひらてかいり)さん
人事部 次長/額賀健次(ぬかがけんじ)さん
2024年4月入社/清水悠生(しみずはるき)さん
「お客様にとっては全員がプロ」という覚悟。だから研修で職人を育てる
お店に立てば、店長が握った一貫も、新人が握った一貫も、お客様が払う代金は同じです。そこには「新人だから」という言い訳は通用しません。それがお金をもらって働く、プロの世界です。
かつては「背中を見て覚えろ」が当たり前でした。そして、今は一般的に、働きながら学ぶ「OJT」が主流だと思います。しかし、忙しい現場ではどうしても「正解」を細かく教える時間が不足しがちです。それでは技術にムラが出てしまい、何より若手が自信を持てないまま板場に立つことになります。私たちが研修を充実させているのは、単に技術を教えるためではありません。お客様より魚を詳しく知り、美しく所作をこなせる「根拠ある自信」を最短距離で持たせるためです。「早く握りたい」という焦りを抑え、あえて時間をかけて基礎を叩き込むこと。それが、一生モノの技術を身につけるための、最も確実な近道なんです。
なぜ「研修所」が必要なのか。他社とは違う、自分を見つめ、深められる環境
現場での学びは実践的で大切ですが、忙しい状況だと質問がしにくかったり、現場ごとに教え方も変わってきてしまったりします。だからこそ、寿司清では本社研修所での集中トレーニングを組み合わせた独自のハイブリッドな教育システムを導入しています。現場ではスピードが求められますが、研修所は正解を確認できます。ここで基礎基本を習得し、指導者のもとでミリ単位の技術を磨き直す。この「店舗と研修所の往復」、そして明確な合格基準があるからこそ、自分の現在地を客観的に把握できるんです。ただなんとなく過ぎていく毎日ではなく、着実に一段ずつ階段を登っている実感が持てる。これが、他社にはない寿司清独自の成長サイクルです。
着実に成長していける教育体制。迷いなく階段を登れるシステム
私たちは、一つ一つ着実に技術をみにつけ、3年間でマスターできるような仕組みをつくっています。
・1年目:基礎基本習得期
まずは仕込みや基礎基本を学びます。海老などの扱いやすいネタから始め、光物、貝類、白身と段階的に技術を習得。また、シャリ切りや玉子焼きといった店舗運営に不可欠な技術も一から学びます 。
・2年目年明け:研修所で握りや巻物を習得
研修所で指導者のもと、握りや巻物、切り付けの基礎を徹底的に叩き込みます。「できる」を「安定してできる」レベルまで引き上げます 。
・3年目秋:付け場デビュー
明確な合格基準が設けてあり、試験をクリアした人は、お客様の目の前、カウンター(付け場)に立ってお客様にお寿司を振る舞えるようになります。
こうして確実な技術を磨き、高いレベルのお寿司を提供し続けられているからこそ、130余年という長い歴史を築いて来られたのです。
17gに込められたプロの重み。試練を乗り越えた先に広がる「新しい景色」
実際に研修中の平手さんと清水さんに話を聞いてみました。
平手さん:研修が始まって、僕たちはすぐに壁にぶつかりました。最初の関門は「シャリ玉取り」。規定の17gを10個連続で揃える。たったそれだけのことが、驚くほど難しいんです。
清水さん:最初は、握るなんて簡単だろうってどこかで思っていたんです。でも、いざやってみるとシャリの水分量ひとつで感覚が全然違う。1ヶ月で500個、600個と練習して、ようやく手が重さを覚えてくれました。
平手さん:ようやくグラムが揃ったと思ったら、次はさらに高い壁が現れました。寿司清伝統の「逆台形」に握らなきゃいけない。手の力の抜き方、形の作り方、教わった通りにやっているつもりでも、どうしても理想の形にならないんです。
清水さん:でも、この徹底的な反復練習があったからこそ、変わったことがありました。自分で握る大変さを知ってからは、先輩や店長の凄さが身に染みて分かるようになったんです。
平手さん:本当にそう。あのスピードで、笑顔でお客様と会話しながら、完璧な「逆台形」を握り続けている。先輩や店長を心から尊敬できるようになりました。研修で自分の伸び代を数値や形として突きつけられるからこそ、学生気分を卒業し、プロとしての自覚が芽生えていくのを実感しています。
学生の皆さんへのメッセージ
「自分にできるだろうか」と不安になる必要はありません。寿司清には、あなたの「やってみたい」という気持ちを、確かな「技術」と「自信」に変える場所があります。 一歩ずつ階段を登った先には、自分の握った一貫でお客様を笑顔にできる、最高にやりがいのある世界が待っています。伝統を受け継ぎ、未来の自分をつくる。そんな挑戦を、私たちは心から楽しみに待っています。
