埼玉・川口で多くのお客様に親しまれ、地元を代表するパティスリーとして知られる「シャンドワゾー」。ケーキ、ショコラ、ジェラート、焼菓子、パンまで幅広く手がけるその舞台裏には、美味しいお菓子づくりと、スタッフが気持ちよく働ける環境づくりの両方を大切にしてきた村山シェフの想いがあります。
今回は、海外での経験を経て独立し、今では幅広い技術が学べる店として多くの若手に選ばれる村山シェフに、ご自身の歩みの中で大切にしてきた考え方や選択について伺いました。
【シャンドワゾー オーナーシェフ/村山 太一(むらやま たいち)氏】
埼玉県春日部市出身。地元のパティスリーでキャリアをスタートし、浦和の店舗を経てベルギーへ。本場の地域密着型パティスリー 文化に触れ、“気取らない美味しさ”の価値に気づき、帰国後は、“買いやすくて本当に美味しいお菓子”を届ける店をつくりたい と独立。現在は、ケーキや焼き菓子のみならず、ジェラート・ショコラ・パンなど幅広いジャンルを扱いながら、こだわりのお菓子 を沢山の人に届けている。
お菓子の世界に飛び込んで気づいた“大切なこと”
パティシエの道を歩きはじめた頃、僕はとにかく毎日が楽しくて仕方ありませんでした。
「どうしたらもっとキレイに切れるんだろう?」
「この生地、なんでこうなるんだろう?」
そんな発見が山ほどあって、仕事そのものにワクワクしていたんです。
ただ、働く店が変わるたびに、自分の中の“物差し”がどんどん変わっていくことにも気づきました。
「この店ではこう作るんだ」
「ベルギーではこんな手法を使うんだ」
「同じケーキでも、こんなにも違うのか」
そんな驚きの連続でした。
その積み重ねの中で実感したのは、“働く店の考え方ややり方が、そのまま自分の技術になる” ということ。
だからこそ、店選びは本当に大切なんです。
自分が何を作りたいのか、どんな技術を身につけたいのか。
その方向性に合う店で経験を積むことが、未来の自分をつくります。
そして僕自身は、修行時代の経験を通して、
「買いやすい値段なのに、本当に美味しいお菓子を作りたい」
という想いを強く持つようになりました。
高級な素材で高級なお菓子を作るより、“日常の中で誰もが楽しめるお菓子”を届けたい。
そこにこそ、自分が目指したいパティスリーの形があると感じたんです。
ベルギーでの原体験。飾らない“日常のお菓子文化”との出会い
ベルギーで働いていた頃、今でも忘れられない景色があります。
地元の人たちがケーキを1〜2個買って、店先や近くの場所でふっとひと息つくように味わっていく。そんな光景がごく自然にあったんです。
特別な日だけじゃない。子どもも大人もお年寄りも、誰もが気軽にケーキを楽しんでいて、そこには飾らない“日常のお菓子文化”がありました。
高級素材で魅せるというより、シンプルに「美味しいね」と笑顔になれる味。
「ああ、こういうお菓子っていいな」
そう心から思いました。
もちろん、高級パティスリーの世界も素晴らしいと思います。
でも僕が作りたいのは、もっと日常に寄り添うお菓子。
だから日本に戻って店を開く時、はっきりと決めました。
“気取らない美味しさで、買いやすい価格でもちゃんと美味しいものを作る”
素材の素直な風味が感じられて、その日のうちに食べてほしいフレッシュさがあって、背伸びせずに誰でも楽しめる味。
そんな考え方の根っこには、ベルギーで出会った“日常のお菓子”があったんです。
“幅広いラインナップ”と“怒られない環境”。それが人を成長させる秘訣
ケーキ、ショコラ、ジェラート、焼菓子、パンなど、シャンドワゾーがこれだけ多くの商品を手がけているのは、「美味しいものを作りたい」と追い続けてきた結果です。
振り返ると、この“幅広さ”はスタッフにとって大きな財産になっています。
ショコラとジェラートを両方きちんと学べるパティスリーは全国でもあまりないと思います。
季節によって売れ行きが変わる商品を複数扱えば、安定した経営にもつながります。
そうした学びや経験が、スタッフの将来の選択肢を広げていると感じます。
実際にうちから独立した子たちは、パティスリーだけでなく、ショコラとジェラートのお店、オンラインショップなど、本当に多彩な道へ進んでいます。
開業後には手伝いに行ったり、数字の見方を教えたり、道具を譲ったりすることも。僕にできることは全部するつもりです。
「せっかく一緒に働いた仲間だから、全員幸せになってほしい。」
その想いが、独立支援に力を入れている理由です。
そして、幸せになってほしいからこそ、もっと成長してほしいとも思っています。
その成長を止めてしまうのが“怒られて萎縮してしまうこと”。
怒られると質問できなくなったり、チャレンジが怖くなったりします。
それでは本人の力が伸びません。
だから僕は、頭ごなしに叱るのではなく、「どうしてそうなったのか?」「次はどうすればいいのか?」を一緒に考えるようにしています。
幅広い技術を学べることも、怒らずに向き合うことも、すべては、その人が自分の未来を自分で選べる力を身につけるための環境づくりなんです。
「また食べたい」と思ってもらえる味のつくり方
僕が作りたいのは、特別な日の主役になるケーキよりも、“なんでもない日のちょっといい時間”に寄り添えるお菓子です。
だからこそ、気取らない美味しさを徹底してきました。
素材の輪郭がきちんと感じられるメリハリ。
その日のうちに食べてほしいからこそ妥協しない鮮度。
そして、価格は買いやすく、それでいて味は本気でつくるという姿勢。
この“手に取りやすさ”と“本物の美味しさ”の両立こそ、僕たちがずっと挑み続けているテーマです。
レモンはレモンらしく、ピスタチオはピスタチオらしく。
多少原価はかかっても、まっすぐ伝わる美味しさを優先する。
その誠実さが、「また食べたい」という気持ちにつながると信じています。
そしてもう一つ大切にしているのは、スタッフが自信を持ってお客様におすすめできるお菓子を並べること。
そのためにも、僕たち自身が「おいしい」と心から思えるものだけを届ける。
この姿勢をずっと守り続けています。
特別じゃないけれど、自然に笑顔になれる味。
毎日の中にそっと寄り添う美味しさ。
そんなお菓子を、これからもまっすぐにつくり続けていきたいと思っています。
学生へのメッセージ
パティシエの未来は、どこで働くかで本当に大きく変わります。
価値観も手の動きも、その店の色が自分に染み込んでいきます。
だからこそ、
「このお店の商品がいい」
「将来自分が作りたいものに近い」
そう思える場所を選ぶのが一番です。
ただ、もうひとつ忘れてほしくないのは、“合わない店に無理してしがみつかなくていい” ということ。
向き不向きや相性は必ずあります。
大人しい子が体育会系の現場で全く評価されなくても、別の店では一気に花が開くなんてことは普通にあります。
だから、一度うまくいかなかったからといって、「自分には向いていない」と決めつけなくていいんです。
20代の10年間は、人生の方向性を形づくるとても大切な時期です。
この時期に身についた技術や知識、そこで出会う仲間は、一生の財産になります。
あなたに合う場所で、あなたらしく成長してほしい。
僕はそう願っています。
