川の水位を調整し、地域の暮らしを守る「水門」。
今回は、斉藤鐵工所の手掛ける過去最大級のプロジェクトに、3回にわたって密着し、プロジェクトのスタートから完成までをご紹介します。
第1回は、現場に入る前の仕事にフォーカス。
受注までの流れや、設計の仕事のリアルをお届けします!
プロジェクトは「入札」から始まる
今回のプロジェクトは、兵庫県丹波市を流れる一級河川・竹田川に水門を設置する工事です。
水位を調整し、農業用水や取水に使われる重要な設備となります。
こうした公共工事は、「入札」と呼ばれる仕組みで受注企業が決まります。
今回は、兵庫県丹波県民局が発注。
不特定多数の事業者に参加を募る「一般競争入札」という方法で、2025年7月~8月に広告がスタートしました。
斉藤鐵工所でも、「入札参加申請書」を提出し、入札参加の意思表示を行いました。
入札の際、企業はまず、工事にかかる費用を細かく計算します。
これを「積算」といい、材料費や施工費をもとに全体の金額を算出します。
そのうえで、「この価格でやります」と提示し、最も条件の合う企業が選ばれます。
ただし、ここには
・最低制限価格があるため、安すぎると失格
・高すぎると他社に負ける可能性がある
という難しさがあります。
最低制限価格が見えない状態なので、まさに読み合いの世界です。
一般競争入札では全国のメーカーが入札に参加します。
特に本件のような兵庫や大阪といった都市では規模も大きいため、参加企業が増える傾向にあります。
本件は、約3.5億円規模の中で、わずか0.2%差での受注という接戦でした。
10月、プロジェクト本格始動
2025年10月に、本件は受注が決定しました。
日本建設情報総合センター(JACIC)が運営する公共工事の工事名・技術者・金額などを登録・管理するデータベース「コリンズ(CORINS)」への登録のため、営業・設計・製造・品質・工事など、各部門から担当者および現場代理人を決めていきます。
そうして決まったメンバーは、定期的に「プロジェクト会議」を行います。
ここでは
・スケジュール
・現場の状況の共有
・トラブルの共有
などを、1~2か月に1回話し合いながら、プロジェクトを進めていきます。
建設業では様々な部門が一つのチームとなってモノづくりを進めるため、各部署の連携がとても重要です。
また、外部との連携も大切。
コンサルタント、役所の担当者との打ち合わせも同時に行っていきます。
設計の仕事を左右する「図面を描く前」の確認
設計の仕事は、いきなり図面を描くことではありません。
まず確認するのは、発注時に提示される「設計図」です。
これはコンサルタントが作成したもので、水門の大きさや構造が示されています。
ただし、そのまま使えるとは限りません。
・強度に問題はないか
・現場で設置できるか
・図面に問題はないか
こうした点を細かくチェックし、必要に応じて発注者へ質問や提案を行います。
特に強度では、深さと水圧を基準書で確認し、計算していきます。
この段階で問題を見つけておかないと、後工程に大きな影響が出ます。
本件でも、発注者と工事条件・詳細な仕様をもとに、気になる項目を一つずつ確認し、質問提出を行いました。
今回の水門について、詳細をご説明しましょう。
プロジェクトは約2年(施工期間は7か月)を要し、起伏ゲートを作ります。
大きさは、23.65mを2門。
同社でも過去2〜3番目に大きい規模です。
人が寝そべったら50人くらいの川幅になります。
起伏ゲートには有効幅や水深の条件によって厚みや扉体のサイズが変わります。
この川幅だと、水流の勢いでねじれてしまう恐れがあるため、1つの水門を2つに分けて片側ずつ設置する必要があります。
それだけの規模となると、確認に要する時間も変わります。
小規模案件では数日〜1週間程度の確認作業も、今回のような規模だと確認だけで約1ヶ月かかりました。
設計には、正確さと慎重さが求められます。
いよいよ図面の作成
設計担当の設計課主任岡本漠さんは、「本件では規模が大きいため確認箇所が多かったのは大変でした。強度が基準ギリギリの箇所もあったため、1つでもミスがあれば成立しない緊張感の中で作業をしていました。そのため、再度質問をするなど丁寧に確認を行いました。書類がすべて揃うのには3か月近くかかりました。」と振り返ります。
設計チームでは、質問の回答待ちの間でも、描ける部分の図面の制作を進めていました。
チームは岡本主任と外注のパートナーで構成された6名。
50~60枚の施工図を作っていきます。
50~60枚の施工図を作っていきます。
パイプ1つに図面が必要になるだけでなく、本件は、高い強度を持つ珍しいステンレスを使用します。
1から部品をすべて作っていくため、施工図面は大量になるのです。
1から部品をすべて作っていくため、施工図面は大量になるのです。
「2次元で製図するので、脳内で3Dにするのが設計の難しさでありおもしろさ。部品ごとに図面ができあがると、一段落した達成感はありますね。」(岡本主任)
設計で気を付けているのは、作る側と設置する側それぞれの要望を満たしているかです。
・製造側:作りやすい形にしてほしい
・工事側:現場で設置しやすくしてほしい
それぞれの要望は異なるため、バランスを取る必要があります。
たとえば、図面上では問題なくても「現場では入らない」というケースもあります。
そのため
・分割して運ぶ
・現場で組み立てる
・設置手順を考えて構造を変える
といった工夫が必要になります。
岡本さんは、施工図を描く際、製造担当者がよりやりやすく、間違いが起きないようにするために細やかな工夫をしていると言います。
・動くものが当たるかの確認
・現場で人が作業するスペース
・溶接する場合の手順の記載
・基点や基準の明示
計算と寸法だけを描けばいいのではなく、スムーズになる配慮を凝らしながら、次の工程へとつないでいきます。
まとめ
入札で仕事を取り、設計で成立条件を整える。
設計に不備があれば、現場でトラブルが起き、スケジュールが崩れれば、工期に間に合いません。
だからこそ、設計者は入念に確認作業を行いながら、同時進行でスケジュールに間に合わせるよう進めていくのです。
こうしてスタートした水門プロジェクト。
次の工程では、設計図をもとに実際に部品を製作していくフェーズに入ります。
そこでは、図面を「形」にするための技術と工夫が求められます。
次回は、製作工程のリアルに迫ります。
